お前に倒れられては、皆が困るからな 気にするな、お前を守りたかった──ただ、それだけだ 平家を倒し、兄上とともにこの世界に平穏を取り戻すこと── それが…それこそが、俺の戦う理由 源氏の一員として棟梁たる兄上の力になることが俺の夢であり、 誇りなのだと、そう思っていた ──あの頃までは 橋姫神社にお前たちが現れたときのことを 俺は昨日のことのように憶えている ただのおとぎ話だと思っていた、京を守るという龍神と神子が目の前に現れ、 そのうえ俺があの八葉の一人だと言うんだからな 本当に驚いたし、何より信じられなかった いきなり創造上の人物を名乗ったかと思えば、 その口で兄上を「源頼朝」と呼び捨てにしたしな 細い首に華奢な手足、これまでろくに剣を握った経験もないだろうと思った 景時や弁慶は何を思ったかは知らないが、 俺はそんな素性のはっきりしない、身を守る術もない、 何より女子供を戦場に連れてはいけないと、そう突っぱねもしたが… 今では信頼できる、その…仲間だと思っている だが、怨霊を封印できる神子が味方であっても、 まだ我ら源氏を取り巻く現状は楽観視できるものではない 八葉にもそれぞれの立場があると分かってはいるんだ だが、封印しつくすことのできないほどの怨霊、そして還内府── じきにまた新たな戦が始まるだろう たとえ相手が平家であろうと…仇敵の平家だからこそ、正々堂々と戦いたい だがそれを、どんな信念を貫くにも力が必要だ 俺はこの先も強くあれるだろうか 兄上の、俺を信頼してくれている仲間の期待に応えられているだろうか 俺は強くありたい 強く、誰よりも強くありたい どんなときも、誰のことも守れる自分でありたいんだ 戦いが終わったら、お前が元の世界に戻れるように力を貸してやる 安心しろ、お前との約束なら必ず──果たしてみせる |
おい …おい ?おい、こんなところで一体どうし…なんだ、寝ているのか まったく、縁側で昼寝とは…まるで猫みたいな奴だな しかし…ずいぶんと気持ち良さそうに寝ているな ん?今笑ったか?…なんだ、いい夢でも見ているのか? お前は気付いているだろうか 俺は…俺は、お前の笑った顔が…見ている者も幸せな気分になれる、 そんなお前の笑顔が…わりと、嫌いじゃないんだ だがなぜか、最近直視できないでいる こうして…寝顔を見ることはできるのにな 幸せそうに眠るお前を見ていると飽きない ずっとこんな風に、穏やかに寝ていられたらいい こんなことを思ったのは…お前が初めてだ しかし…細い手首だな こんなこと、今さらだろうが…これでよく、ああも剣が振り回せるものだな これが男女の違い、というやつなんだろうか 髪も流れるようで…やっぱり、俺とは手触りからして違うな それになんだかいい香りもするし…これは花の香りだろうか 睫毛も長くて頬に影が… ──っ、いや、人の寝顔を覗き込むなど、ぶしつけだったな …なっ、起きていたのか! 今、俺の名を呼んで…ああ、寝言か… …っ!…おい…今のも寝言なのか? 俺の夢を見ているのか?どんな夢を…? う、うわっ、お、おお起きたのか! あ、いや、別に俺は何も言っていないぞ! …何か聞こえた?なんでもない!お前の空耳だ! そんなことより、起きたのなら行くぞ どこにって、約束しただろう 時間ができたら、お前が行きたいところへどこへでも連れていくと なんだ、まだ決めてなかったのか …俺の好きな場所? そうだな、俺は── |