お前の世界じゃ、初詣の後に籤をひくんだな で、お前の運勢はどうだったんだ? ん?病、十分注意すること 失せ物見つからず…散々な一年になりそうだな その…あまり気を落とすな 困ったことになったら、話くらいは聞いてやる 運勢に対して俺に何ができるかは分からんが 役に立てることもあるだろう しかし…すごい人手だ… この様子だと、無事に帰れるか心もとないな 俺じゃない、お前が危なっかしいんだ ほら、手を出せ ちゃんと…握っていろよ? 人混みではぐれたら面倒だろ それに…今年一年不運なお前を守ると言ったばかりだからな 約束は、守る! |
先輩、よければこれ…ちょっと味見してもらえますか? ええ、チョコレートです 自分では甘くなり過ぎないように気を付けて作ったつもりなんですが… 美味しい、ですか? 良かった…ええ、一応バレンタインだから作ってみたんです 気に入ってもらえて安心しました え?誰かこのチョコレートをあげたい人がいるのか…ですか? それは…居ますよ 居ますけど…その人は俺の気持ちに気付いていないみたいですから… 美味しく食べてくれさえすれば、俺にはそれで十分です どうか、ゆっくり味わってください |
野に出て花を摘むなんて…何年ぶりかしら? ふふふっ…たまには童心に浸るのも悪くないわね 見て、蒲公英の花鬘(はなかずら) 最後に作ったのは…ほんの子供の時なのに、意外と憶えているものね あなたの髪に似合うかしら じゃあ、被せるから動かないでね あら、髪に蜘蛛の糸が… 慌てないで、折角だから貴方の髪を梳いてもいいかしら 上巳の節句は、身を清めて災厄を祓う行事だもの あなたの厄は、私が落としてあげる |
おはよ、お目覚めかい?姫君 ん?俺が夜明け前に忍んで来たから驚いてるのか? ふふっ、忘れてるみたいだね お前に京で一番綺麗な桜を見せると約束したから、連れ出しに来たんだ 花は夜明けに見るのがいい東の空が次第に空け染めて、 花の波が青い闇のそこからほの白く浮かび上がっていく お前が見たら、どんな顔をするだろうと思ったんだよ 重ねた袖を下に敷いて 有明の月と桜を一緒に愛でるのも悪くないけど… それはまたいつかのお楽しみ、ってことで さ、支度してきなよ 早く出かけようぜ |
七夕の晩には、宮中で乞功奠(きっこうでん)って祭事をするんだよ 織姫にあやかって技芸の上達を祈るお祭りでね 管弦の楽を奏して歌を詠みあったりするんだって オレもあやかってみようかな 「朝と明けて ながめやすらむ 七夕の あかぬ別れの空を恋いつつ」ってね 年に一度しか逢えないんだから 織姫と彦星もできるだけ夜が明けるまで一緒にいたいはずだよね オレも…今夜は君を帰したくない …ハハハ、なーんて言ったら困っちゃうかな |
神子、駄目だ…私にこれ以上近づいてはいけない 蛍の飛び交うこの川は私と貴方を隔てる川、 この川を超えてはいけない 私は岸のこちらに…貴方は向こうに立って同じ蛍を眺めている 私にはこれ以上望むことなど許されない 蛍という虫は鳴くことができないから、 思いがあのように火となって 身を焦がしているのだと聞いたことがある 隠しても隠し切れない思いが青白い光となって 零れ出ているのだと… ならば、私もあの蛍のなかの一匹なのだろうか 抑えきれない想いに… 魂だけが三瀬の川の川岸を彷徨っている ほんの一時だけでも 貴方の指先にとまることが…許されればよいのだが |
中庭 地白くして 樹 鴉を棲ましめる 冷露 声無くして 桂花を湿す 今夜は月明 人尽望む 知らず 秋思 誰(た)が家にか在る …目を覚ましてしまったか 私の外套を払いのけていはいけない 秋の夜気は思いのほか冷たいものだ 身体に障るかもしれない 月に魅入るあまり疲れてしまったのだろう 今しばらく、そのままで休みなさい 眠いのであれば無理をすることはない お前を抱きかかえるのは…苦ではないのだ |
秋の空は清々しくていいですね 済んだ青と燃える様な木々の赤 この風景を、君と見ることができて本当に良かった 紅葉合わせという遊びをしてみませんか? お互いに拾った紅葉葉の美しさを競い合うんです ふふっ、綺麗に色づいた紅葉葉ですね でも僕が拾うのは…君の可憐な掌(たなごころ) この山のどの紅葉葉よりも、僕はこの手がいとおしい だから手を…ふりほどかないでくれますね? |
なかなか綺麗なイルミネーションだなぁ こういうの好きだろお前 クリスマスの買出しなんて退屈なだけかと思ってたけどな 意外な役得があるもんだ 12月になる前から騒いでるヤツらの気は知れねぇが、 一年にいっぺんくらいはこういうのも悪くないぜ ケーキも食えるし おいおい、雪まで降ってきたのかよ ホワイトクリスマスだなんて出来過ぎだろ お前寒くないか?オレは正直寒いぜ… お前のマフラー、ちょっと借りるぞ おい、怒るなって! ほら、こうして一緒に巻けば二人とも温かいだろ? 家に着くまで半分、貸してくれるよな…? |
ううん、まだ眠くない 神子と一緒に新しい年を迎えるって決めた まだ晦日(つごもり) 眠く、ないよ 無理して、ないよ 外が静かだから、瞼が下がってくだけ 雪が、音を吸ってるんだね 気の流れも、緩やかだよ この世界には私と神子、二人だけみたい あったかい 毛布に包まって聞こえるのは、心の臓の音だけ 私の世界は、神子だけ あ、新しい年だよ、神子 えっと、こういうとき、人の言葉で…何か、言ってた そうだ 明けまして、おめでとうございます |
神子、なんて美しい朝なんだろう ほら、木々も風も大地も みんないつもよりずっと生き生きしている 今日は特別な日だから 清らかな気が凝り固まり、 あなたが生じた日、私の大切な存在がこの世界に生まれ出でた日だ 神子の生じた時空では、 この日に祝いの心を込めた贈り物をするのだと聞いた 私もあなたに祝福を送りたい 今日だけでなく、いつもずっと私の大切な神子に 私の力が及ぶ限りの祝福を ―─大好きだよ |